PARCIC

シリア難民

シリア難民の子どもや保護者の希望を育むチャイルドフレンドリースペース活動

トルコでは、シリア難民の子どもたちへ教育や心理社会的支援を届ける移動式のチャイルドフレンドリースペース活動を継続しています。活動を開始してから10ヶ月以上が経ち、初めは感情の表出も乏しく、人の話を聞くことや友達と一緒のグループ活動をすることが難しかった子どもたちですが、いまでは協調性をもちながら自信をもって行動できるようになってきました。
今回は当初から活動に参加している、ある男の子を紹介します。

5歳のカーヒル君はシリアのハサカ出身で、3年前にトルコへ避難してきました。幼少期から戦争、避難、難民生活を体験してきただけでなく、先天性の聴覚障がいという困難も抱えています。支援機関から補聴器を得るためトルコの病院で診断を受けたものの、病院でほかの治療が受けられる訳ではなく、また市郊外の農村地の真っ只中で暮らしているため市内の医療福祉機関へ頻繁に通うことはできません。病院の診断によると30%しか聴こえていないとのことで、両親はカーヒル君がトルコの学校に通えるとは考えておらず、村の小学校でも特別支援教育などは実施されていません。


家の前で遊ぶカーヒル君ときょうだい

パルシックの活動が始まる前は近所の友達と遊ぶことも難しく、障がいのため仲間にも入れてもらえませんでした。両親やきょうだいでさえ”聞こえない、障がい者だ”と見なし、カーヒル君が伝えたいことが理解できずコミュニケーションがうまく成立せず、最終的にはお互い叩く、物にあたるなど暴力的な行動となっていました。他の支援機関から支給された補聴器も使い方の説明が十分でなく壊してしまい、不快なノイズ音がするため着用を嫌がり補聴器なしで生活していました。父親が何度か支援機関へ電話をしましたが、連絡が取れませんでした。家族はカーヒル君に話しかけるよりも、身振り手振りだけでコミュニケーションしており、本人も自分が”おかしい”と感じていたためか発声しようとしていませんでした。

訪問当初の私達とのコミュニケーションでは、カーヒル君はいつも恥ずかしがるような笑顔で言葉はありませんでしたが、相手の目や口をみて読み取ろうとしたり、遊びに積極的で人との交流を楽しもうとしたりする傾向がみられました。また、子どもたち全員で発声するときにはカーヒル君も口を開けてなにか言っているようでしたが、個別に指名されると口を閉じてしまいました。


訪問を始めた当初のカーヒル君

週1回のパルシックの活動では個別のスピーチセラピー[1]などは取り入れられませんでしたが、カーヒル君の明るい性格も考慮し、他の子どもたちを含めたインクルージョン[2]活動のなかで本人や周囲が”障がい”を気にせず発達できるようプログラムを考えてきました。学習活動では文字や数字の読み書きと共に発声練習に焦点を当てアウトプットを増やし、遊びの中でも参加することや表現することを大いに褒め、自己効力感(自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できる能力を持ち合わせているかの認知)を伸ばしました。また、両親にもカーヒル君の成長を逐次報告し、困難がありながらも発達の素質があることを伝え、積極的に話しかけることや指示を出す時にも身振りだけでなく言葉と共に説明してほしい点などをアドバイスしました。

活動が始まって2ヶ月後、アラビア語文字の発音を練習している際に、指名されたカーヒル君から初めて文字の発声「ba」が聞こえました。その場にいたスタッフ全員が思わず顔を見合わせ、本人の声を初めて聞き喜びと驚きを隠せませんでしたが、他の子どもたちと同じように大いに褒めました。その頃から、ゆっくりではありますが次第に文字だけでなく言葉の発音も聞かれ、「先生」と呼ぶようになりました。何か伝えたい時や文句がある時は、明瞭ではありませんが簡単な文章で身振り手振りを使いながら話すようになりました。学習活動では、答えが分かっていてもいなくても、真っ先に手を挙げています。


家族や友達の前でも堂々と質問に答え、補聴器を付けて活動に参加するように

使っていなかった補聴器は、支援された団体へ改めてコンタクトを取り修理してもらい、パルシックの活動に参加しているときは装着に慣れることから練習を始めました。未だ日常生活で常に装着する習慣はついていませんが、暴れるほど嫌がっていた補聴器を、活動時には自ら着けて参加するようになりました。

[1] スピーチセラピー
難聴、脳卒中の後遺症や失語症、他の精神疾患などにより言語・聴覚・音声の障がいをもった人に対する、スピーチセラピスト(言語聴覚士)による音声や言語、摂食嚥下やコミュニケーション全般に関する訓練・検査・指導

[2] インクルージョン活動/教育
障がい児と他の子どもを分けて教育する分離教育に対して、単に通常活動に障がい児を含めるのが統合教育(インテグレーション)。「インクルージョン」では障がいの有無に関わらず、子どもの個々の違いを認めニーズに対応し、すべてを包み込む活動や共生社会を目指す。対象村の活動では難聴の子どもだけでなく、発達の遅れやコミュニケーション/対人関係の難しさをもつ子どももいるため、全体がそれぞれの困難や強みを受け入れながら学習及び心理社会的活動に参加できるようプログラムを計画。

カーヒル君の母親より

息子の行動の改善は目覚ましく、以前よりも幸せそうで、自信をもって行動しているように見えます。きょうだいとのコミュニケーションも良くなりましたし、他の子どもたちとも遊ぶようになって友人関係を作れるようになりました。なにより言葉を発するようになり、最近では文章を話し、息子のために配慮してくださっている活動の成果だと思います。息子の成長がとっても嬉しいですし、もっと多く訪問して活動を実施してほしいです。


お母さんとのコミュニケーションも増えるように

カーヒル君のように、未だ他に教育や保護支援を受けられないシリア難民の子どもたちがたくさんいます。避難生活を送っているトルコの学校などの公立機関で、彼ら/彼女らが見守られる状況ができるまで、子どもたちの発達や成長を保護していくことを目指します。


1年弱で、ぐんとお兄さんになったカーヒル君

(シャンルウルファ事務所 マフムード)

※子ども保護事業はジャパン・プラットフォームの助成と、みなさまからのご寄付で実施しています。