特定非営利活動法人 パルシック(PARCIC)

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再生へ歩むシリアの春 ―帰還民と避難民、それぞれの今を支える取り組み

  • 活動レポート
  • シリア国内避難民・帰還民の生活再建支援
  • シリア・レバノン・トルコ
  • 経済自立支援事業

こんにちは、レバノン事務所のアンソニーです。

シリアでは春が訪れ、花々が咲き乱れ、緑色の小麦畑はエネルギーに満ち溢れています。まだ春の中頃だというのに気温はどんどん上がり、すでに30度を超えています。夏はすぐそこまで来ている、そんなシリアで私たちは活動を続けています。

シリアの現在の状況

シリアに訪れた新たな平和は、きわめて脆弱で、新政権をすでに脅かしています。ダマスカス南部では、イスラム教を侮辱する宗教的少数派のビデオが公開された後、宗派間の暴力が勃発しました。治安を維持管理しようとする政府の努力にもかかわらず、緊張は高まっています。さらにイスラエルはその状況を口実に、ダマスカスを空爆しています。

 一方、政権崩壊を経て、故郷へ戻る人びとの数は増えています。しかし、戻っても仕事がなく、住む家すら失われている場合も少なくありません。そのため、故郷に戻ってきたものの何も見つけることができず、以前避難していた場所に戻る人も多く、国内避難民の動きを追うのは困難な状況です。

治安状況は、幾分かは改善しました。しかし、誘拐や暴力などが引き続き発生している地域もあります。夜間の移動には注意が必要な地域がある一方で、ダマスカスのように世界の他の都市と変わらない比較的安全な地域もあります。

シリアの人びとの生活面に大きな変化はありません。多くの人が、日雇いの仕事や、海外に住む親戚からの送金に頼った生活を送っています。これは特に、自分の故郷で新しく生活を立ち上げようとしている帰還民や国内避難民に多いです。

様々な内部要因および外部要因により、シリアの人びとが自力で立ち上がるには、依然として多くの支援が必要です。

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国内避難民キャンプで生活する子どもたち

食糧安全保障と生計の向上が、私たちのシリアでの活動の柱であることに変わりはありません。現在パルシックは、農地の再生に取り組む農家の支援、帰還民の小規模ビジネス立ち上げ支援、国内避難民への物資配付などに取り組んでいます。

農業活動

今年活動する村では、ひとつの家に複数世帯が同居し、共有の土地で野菜を育てている例が昨年より顕著に見られます。支援対象の22世帯のうち、半数以上が帰還民で、広めの土地を複数家族で共同利用しています。私たちはその一部を利用して農業活動を支援しています。

冬に植えた小麦の収穫時期はまだですが、種や肥料の提供によって生活の負担が軽減されたと報告されており、人びとは青々と育つ小麦の穂に豊作の希望を託しています。

とはいえ、気象状況は大きな課題です。先の冬は、シリアにおいて過去65年間の中で最も乾燥したものとなりました。極端に少ない降雨量と、早い夏の訪れにより、通常は冬の雨で育つ作物の世話に苦労してきました。それでも、農業専門家の支援により、今年の収穫量が期待値よりも高くなることに彼らは希望を持ち続けています。

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麦の穂の生育状態を確認

小規模ビジネス起業支援

今年の事業の参加者は、全員が帰還者もしくは最近帰還したばかりの人びとです。彼らの多くは、故郷を離れて避難してきた人たちと変わらず、ほぼ「よそ者」のような状態で、技術を持っているにもかかわらず事業を開始できない状況にありました。事業に参加を希望する人たちは最初25人いましたが、そのうち2人は戻ってきた故郷に住む家を見つけることができず、結局元々の避難先であったイドリブへ戻ってしまいました。

最終的に22世帯が多様な事業を開始しました。事業が実際に開始したのはつい最近のことですが、多くの人がすでに事業が成功していると感じています。農村地帯なこともあり、多くの人が家畜を育てることを選択しました。一方で、村に不足しているサービスを選択した人もいます。

2人の参加者は、相互に連携する事業を開始しました。一人が養鶏を、もう一人がその鶏を捌いて、ケバブにして提供するというものです。鶏肉屋は村の中でも戦略的に良いロケーションを見つけ、衛生的で質も高く、開店間もないにもかかわらず、新たな機材投資が可能なほどの利益が得られる見込みです。養鶏を始めた参加者は、シリア北部での避難生活中に父親から継いだ技術を今、故郷で活かせることに大きな喜びを感じています。

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養鶏を開始した様子

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オープンしたケバブレストラン

ソーラーパネル設置の事業を始めた参加者もいます。電力インフラが不安定なシリアでは、ソーラーの需要が高まっています。これまで他村に頼っていた設置作業が、今では地元の業者によって行えるようになりました。事業主は、部品による利益を最低限に抑え、彼自身が持つ専門的な技能による作業から利益を得ています。彼によると、ソーラーパネルの需要は現在とても高く、このことは多くの人びとが村での生活再建に投資したいという意欲を持っていることの現れであるとのことです。

もちろん、これからも課題はつきません。私たちがともに事業を行っている村人の購買力は低く、変動しやすいでしょう。その状況で、利益から貯蓄をするのは大変でしょう。為替レートは不安定で、現地通貨で事業を行っていれば急に価値が下がるかもしれません。私たちは、事業を行っている人びとがそれらの起こりうる課題に対して準備できるよう支援を行い、彼らがどのように成長していくのかを見守っていきます。

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ソーラーパネルとその部品

キャンプでの物資配付

シリア北部では、キャンプで避難生活を送る国内避難民への支援を行っています。油、お米、パスタなどが入った食料バスケットを配付しました。故郷に戻れずにいる人たち、あるいは一度は故郷に帰ったものの住む場所を見つけられずキャンプに戻ってきた人たちにとって、この支援で、少しでも食料に対する不安を和らげることができればと願っています。

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国内避難民キャンプにも春の花が咲いています

 これからに向けて

 シリアの未来は、依然として霧がかかっており、不透明です。現地で暮らす人びとにとっては、なおさらです。それでも私たちは、参加者の方たちと力を合わせ、少しでも明るい未来への道を切り拓いていけると信じています。地域情勢の変化に伴い、今後も様々な課題に直面したり、予期せぬ出来事が起こったりするでしょう。しかし、私たちの目標は変わりません。シリアの人びとが自らの力で立ちあがれるよう、これからも支援を続けていきます。

これらすべての活動は、皆さまのご支援があってこそ実現できるものです。ありがとうございます。引き続き温かいお気持ちを寄せていただけると幸いです。

(レバノン事務所 アンソニー)
*この事業は、ジャパン・プラットフォームの助成および皆さまからのご寄付により実施しています。

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