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西岸からの声:伝えられないもう一つのナクバ(大災厄)

  • コラム

パレスチナのヨルダン川西岸地区で長く続く占領、暴力の現実を描いた映画「ノー・アザー・ランド」が2025年の第97回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞し、日本各地で上映されています。西岸の状況がよくわかる作品ですので、機会がありましたらぜひご覧ください。そんな西岸の様子について、西岸事務所のヤラから現地レポートが届きました。

ヤラからのレポート

「ヨルダン川西岸地区では、いったい何が起きているのか?」と聞かれたら、私は「ほとんど報道で伝えられていないもう一つのナクバ(大災厄)が進行しています」と答えます。イスラエル軍による連日の軍事攻撃や住民の拘束、そして入植者による暴力によって、私たちの生活基盤が破壊され、多くの人が強制的に避難を余儀なくされています。特に西岸北部のジェニンやトゥルカレムの難民キャンプは、ほぼ完全に破壊され、ほとんどの住民が国内避難民になっています。

確かに、西岸地区の状況はガザに比べると「小さな出来事」に見えるかもしれません。しかし、難民キャンプへの攻撃というのは、単なる破壊ではありません。難民キャンプに住む人びとは、イスラエル建国の1948年前後に故郷を追われてきた人たちです。世代が変わっても「ここは一時的な家で、いつかは元の家に戻るんだ」という希望が引き継がれています。しかし、今起きていることは、そうした仮の住まいを破壊するだけではなく、「元の土地に帰還する権利」や「帰りたいという願い」を持つ難民そのものの存在まで否定しようとする動きです。

北部以外の地域でも、2023107日以降、多くの人びとの生活に影響が出ています。分離壁の内側(イスラエル側)で働いていた10万人以上のパレスチナ人は職を失っています。またパレスチナ自治政府の歳入の大部分を占める輸入関税がイスラエル政府によって差し押さえられ、公務員の給与も大幅に減額されています。経済状況は日を追うごとに悪化しています。イスラエル軍は西岸各地に新たに200か所以上の検問所やゲートを設置し(107日以前も、すでに700か所以上はありました)、私たちの移動を妨げています。さらに、農民の畑の周囲に恣意的にフェンスが張られ、農業の継続も困難になるケースも急増しています。ですが、こうした状況は107日以前からもすでに起きていたことです。

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北アシーラ村の入口に新しく設置された人びとの通行を妨げるゲート

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2024年の収穫期に入植者によって火をつけられたオリーブ畑
https://www.btselem.org/video/20250122_2024_west_bank_olive_harvest_israel_furthers_land_grab_through_tighter_restrictions_on_palestinians_and_extreme_state_violence#full

少し前のことになりますが、3月、私たちはガザでの大規模攻撃が始まって以来、2回目のラマダン(断食月)を迎えました。ラマダンはイスラム教徒、つまり多くのパレスチナ人にとって、神とのつながりを深めるため、モスクに足を運び、何時間も祈りを捧げ、家族や親族、友人と過ごす時間に改めて感謝する特別な月です。

西岸と東エルサレムの間には検問所があり、普段は東エルサレムに行くことは簡単ではありませんが、これまでラマダン中は特別な通行許可証が発行され、東エルサレムにあるアル・アクサモスクで祈ることができました。アル・アクサモスクの中庭では、友人や親せきなど、1,000人を超える巡礼者たちと一緒にイフタール(断食明けの食事)を囲むこともできたのです。しかし、この2年、西岸のパレスチナ人が以前のようにラマダン中に分離壁の内側にある東エルサレムのアル・アクサモスクで礼拝をするのは、もはや夢のような話になってしまいました。

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「岩のドーム」のあるアル・アクサモスク

そして、愛するガザはより深刻な状況が続いています。食料などの支援物資を乗せたトラックが通る検問所は、32日から2か月以上閉ざされたまま、人びとは飢餓の危機に瀕しています。そしてこの2年近く、人びとが安らかに眠れた夜は一度もなかったでしょう。イスラエルによる攻撃で、ガザでは1000以上のモスクが破壊され、人びとは路上や避難所のテントの中で祈りを捧げています。時計や礼拝時間を知らせるモスクからの呼びかけ(アザーン)もない中で、祈りの時間やイフタールの時間さえ、自分たちで推測して過ごしているのです。

ラマダンが明けるとイード(祝祭)を迎えます。しかし、パレスチナでは、ガザの人びとが停戦を喜びあい、すべての傷が癒える日まで、イードを心から祝うことはできないのです。

(西岸事務所 ヤラ)

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