命をつなぐ農業支援―ガザの農家とともに
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ガザ地区では20か月以上にわたって激しい攻撃が続いています。2025年の3月初旬から2か月半の間は、ガザの外から支援物資がまったく搬入されない状態が続きました。6月中旬現在、一部の支援物資の搬入が再開されていますが、その量はごくわずかで、人びとは依然として深刻な食料難に直面しています。国際的な指標「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」は、2025年9月末までにガザの4人に1人が壊滅的な飢餓状態(フェーズ5)に陥ると警鐘を鳴らしています。
ガザはもともと農業が盛んな地域で、多くの農家が野菜や果物を生産し、イスラエルやヨルダン川西岸地区、ヨーロッパへの輸出も行っていました。しかし2007年以降、イスラエルによる軍事封鎖によって、種苗や肥料といった農業資材の搬入が制限され、水や燃料も不足。さらに、イスラエル軍により農地への立ち入りも制限されるなど、農業は困難を極めていました。それでも、軍事封鎖下で物流が恣意的に阻害されるガザで、農業は人びとの命を支える重要な役割を果たし、今般の戦争以前はガザの食料自給率は約44%に達していたと言われています[1]。
しかし、2023年10月7日以降、イスラエルはガザの農地も大規模に破壊してきました。2025年5月時点で、生産が可能な農地は10月7日以前の2割弱しか残されていません。それでもなお、人びとはわずかに残された土地を耕し、命を繋ぐ食料を生み出そうと懸命に農業を続けています。パルシックは、農家に農業資材を届け、農業の継続を支援する活動を行っています。先日、支援先の農地を訪問したガザスタッフのタグリードから現地レポートが届きましたので、ご紹介します。
[1] https://www.aljazeera.com/news/longform/2024/7/2/how-israel-destroyed-gazas-ability-to-feed-itself
タグリードからのレポート
戦争以前はガザの中南部は農業が盛んな地域でした。しかし、イスラエル軍による地上侵攻が続いているため、多くの農家が自分の農地に近づくことすらできず、安全に農作業をすることが困難になっています。また、農業に必要な水や種苗、農業機械を動かすための燃料も不足していて、農業を続けるための費用が農家の大きな負担になっています。その結果、農家は暮らしを維持することさえ困難になっています。
それでもまだ、ガザの中では約500軒(注:5月現在。農家数は提携団体より)の農家が、ガザの人びとに食料を届けようと、野菜などの生産に懸命に取り組んでいます。パルシックはこのうち100軒の農家に対して、肥料などの農業資材を届けて、地域の食料生産の回復と継続を支援する準備をしています。

農家を訪問し、課題や要望などを聞き取るガザスタッフのタグリード(左)

提携団体(PARC)のスタッフと手分けして、支援対象候補者の農地を訪問
5月初旬、農業資材配付の準備として、共に活動する提携団体、パレスチナ農業復興委員会(PARC)の農業専門家とともに、中部県とハン・ユニス県の支援対象農家を訪問し、耕作地の様子や農家の暮らし、農業への思いを聞きました。一部の農地では、すでにナス、ピーマン、カボチャ、オクラ、モロヘイヤなどの植え付けが始まっていました。多くの種苗会社が被害を受けて流通が滞るなか、自ら苗や種の生産を再開しようと取り組む農家の姿も見られました。
一方で、苗や種の入手の遅れや、燃料価格の高騰によって農機具を動かせず、耕作の準備が進められない農家も少なくありませんでした。加えて、水不足や資金不足によって肥料が買えず、農業再開の大きな妨げとなっていました。
厳しい状況が続くなかでも、「家族を養いたい」という強い思いから、農業ができない今も再開への意欲を抱き続ける農家が多くいました。 ガザの人びとが生き残るために農業を続けなければという強い気持ちと、あきらめない姿が印象的でした。

提携団体(PARC)の農業専門家と一緒に支援対象候補の農家を訪問
中部県デイル・アル・バラ市でナスを栽培している農家のフスニさん
「戦争前は農業資材の値段も手頃で、何でも手に入りましたが、今は信じられないほど高価です。これは苗だけでなく、電気代、農薬、肥料など全てに当てはまります。以前は農業省からの支援もありましたが、今はそれもありません。
苗1株が13円ほどでしたが、今では120円もします。そして、品質もひどく悪化しています。栽培に不可欠な水は値段が高すぎるか、そもそも入手できなかったりしますし、肥料や農薬もあり得ないほど高額です。最近、たい肥用のふん1袋に1200円も払いました。戦争前に比べて非常に高い値段です。家畜がこの地域にほとんど残っていないからです。とにかく、毎日本当にたくさんの問題に直面しています。それでも私はこれからも農業を続けていきます。母と妻、そして3人の子どもを養うために。農業は私の唯一の収入源なのです」
ガザ中部のヌセイラットエリアの難民キャンプで唐辛子とササゲを栽培している農家のヤヒヤさん
「自分の土地を耕すためにはトラクターが必要ですが、トラクターを動かすためには燃料が必要です。しかし今、ガザへの燃料供給が止まっているので、ガザ内では深刻な燃料不足が続いています。燃料費が高すぎて、私たち農家には手が届きません。そのため、トラクターを使って耕作に必要な土地の整備をすることができないのです」

実り始めた小さなナスを見せてくれる農家
このように、農家は様々な困難に直面しています。そこで、私たちは肥料などの農業資材を届けることで、農家が野菜栽培を続けられるよう支えていきます。ガザの人びとに新鮮な野菜を届け、少しでも食料難の状況を和らげることを目指しています。
(ガザ事務所 タグリード)
*この事業はジャパンプラットフォームからの助成および皆さまからのご寄付により実施しています。