未来への一歩を支える ― 生計支援が育む希望
- 活動レポート
- シリア国内避難民・帰還民の生活再建支援
- シリア・レバノン・トルコ
- 復興支援事業
シリアでは、2024年12月のアサド政権崩壊以降、350万人を超える人びとが避難先から故郷へ戻っています。しかし、長年にわたる戦争で国土は荒廃し、破壊された住宅の再建や、水・電気・医療など生活インフラの復旧は十分に進んでいません。帰還した多くの人びとは仕事を失ったままで、生活基盤が失われた地域で厳しい暮らしを強いられています。
パルシックは、シリアで困難な状況にある世帯の生計再建を支える活動を続けています。かつてシリア経済を支える基幹産業だった農業の再開支援に加え、小規模ビジネスの立ち上げを後押しする生計向上事業も実施しています。
シリアの農村部では農業が主要な生業ですが、特に困難な状況にある世帯の中には、自ら耕作できる土地を持たない人びとも少なくありません。この事業では、そのような人びとを対象に、小規模ビジネスを始めたり再開したりするために必要な資機材の提供や研修を行い、収入を得る手段の回復を支援しています。
今年はこれらの取り組みに加え、住民の保護(プロテクション)に関する啓発活動も新たに実施しています。シリアでは今なお危機的な状況が続いており、多くの人びとは日々の生活を維持することに精一杯で、長引く危機の中で子どもや女性を取り巻くリスク、地域社会のつながりといった課題に向き合う余裕を失いがちです。
そこでこの事業では、子どもの保護やジェンダーに基づく暴力(GBV)の予防、地域で支え合うことの大切さ(ソーシャル・コヒージョン)をテーマとした研修を実施しています。人びとがこれらの大切さを改めて認識し、知識や意識を深めることで、さまざまなリスクを未然に防ぎ、安心して暮らしを立て直していくことにつながります。

研修の様子
シリア国内で活動するパルシックの現地スタッフ、マジドから届いた活動レポートをご紹介します。
小規模ビジネス起業支援の成果は、立ち上げられた事業の数や提供された資機材の数だけで図れるものではありません。大切なのは、その支援によって人びとの暮らしにどのような変化が生まれたかということです。今回、支援を受けた人びとを訪ねて話を聞く中で、一人ひとりにそれぞれの物語がありました。その内容は一見ささやかなものですが、そこには困難の中でも前を向く力、自分らしく生きようとする姿、そして未来への希望が表れていました。
ある女性は、親戚と一緒に女性服や子ども服を売る小さなお店を開きました。彼女にとってこの仕事は収入を得る手段以上のものとなり、新しい暮らし方そのものになりました。毎朝、彼女は子どもたちを連れてお店に行きます。子どもたちは学校の勉強道具を持ってきて、彼女はコーヒーをいれ、お店に花を飾ります。彼女は笑顔でこう話してくれました。
「以前も一日中、一生懸命働いていました。でも今は、子どもたちのそばにいながら働くことができます。人に囲まれ、笑い声が響き、太陽の光が差し込む場所で働けるようになりました。できるだけ手頃な価格で商品を提供し、決して大きな利益ではなくても、暮らしに必要な収入を得ながら生活を立て直していきたいと思っています。そして何より、自分らしさと、生きる目的を取り戻せたように感じています」

自分らしさを取り戻せたと語る女性
別の家族の話では、事業による変化は、直接支援を受けた本人だけではなく、家族全体にも広がっていました。ある10代の男性は、自分のバイク修理店を開きました。また、彼の母親も保護に関する研修に参加しました。母親は以前、父親のいない中で思春期の息子たちを育てることへの不安を打ち明けていました。悪い仲間に影響されるのではないか、暴力や薬物に巻き込まれるのではないかと心配していたのです。母親は今、誇らしそうに息子のことを話してくれました。かつては遊びや日雇い仕事を求めて村を歩き回っていた息子が、今では自分の修理店で懸命に働き、年下の兄弟の面倒も見る責任感のある若者になったのです。
保護に関する研修は、農業支援や小規模ビジネス支援に劣らず、大きな意味を持つ取り組みとなりました。ある回では、普段はたくましい姿を見せる農家の男性たちが集まりました。話し合いは、父親としての思いや、子どもたちの将来への不安について率直に語り合う、貴重な機会となりました。笑い合ったり、自分たちの苦しかった子ども時代を振り返ったりする中で、多くの参加者がこれからは息子や娘との会話を増やし、子どもたちを将来直面するかもしれない危険から守っていこうという思いを新たにして、研修を終えました。
化粧品や女性向けのアクセサリーのお店を開いた女性の話も印象的でした。彼女は、細かなところまでよく気を配り、しっかりと計画を立て、日々の商売を丁寧に管理しており、その姿はプロジェクトチームに強い印象を残しました。お店が順調に進んでいることを受けて、現在は、家の近くにあるより広い店舗への移転を計画しています。また、さらに商売を広げるために、インターネット環境の整備や太陽光発電の導入についても検討しています。彼女は、販売する商品一つひとつについて、女性のお客さんに魅力が伝わるよう、見せ方や包装にも細やかに気を配っています。これまでを振り返り、彼女はこう話してくれました。

化粧品やアクセサリーなどを扱うお店の店内
「自分にここまでの強い意志とやり抜く力があるとは思っていませんでした。今では、自分自身に誇りをもっていますし、家族も私のことを誇りに思ってくれています。お店に来るすべての女性にも同じように思ってもらいたいです。だから、お店に来てくれた女性たちにも、自分の経験を話し、自分を大切にしながら少しずつ前に進んでほしいと伝えています」
パルシックはこれからも、シリアで生活を取り戻そうと歩み続ける人びととともに、一人ひとりが安心して暮らし、自分らしい未来を築いていけるよう支えていきます。
(レバノン事務所)
*この事業は、ジャパン・プラットフォームの助成および皆さまからのご寄付により実施しています。
