鶏肉と卵を人びとに届けるために ― 畜産農家の新たな挑戦
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- ガザ地区における羊の畜産支援
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パルシックは2023年10月に始まった戦争以前から、ガザ地区の小規模農家70世帯を対象に、羊の飼育を通した生計向上支援を行ってきました。しかし戦争以降、激しい攻撃で多くの羊が犠牲となり、36世帯が飼育をやむなく中断していました。
2026年、パルシックはガザ地区で羊の飼育を中断していた農家36世帯に対し、1世帯あたり約50羽の鶏と飼育に必要な資材を届け、養鶏支援を開始しました。これらの農家の多くは、もともと鶏も飼育していたため、養鶏を通じて生活の再建を支えます。
ガザでは、停戦後も食料をはじめとする物資の搬入制限が続いており、食料を確保することが困難な状況が続いています。特に、肉や卵などの貴重なタンパク源の不足が深刻です。そのため、ガザ外部からの支援物資に頼るだけではなく、ガザの中で食料を生産し続けることは、人びとの健康を支えるためにも重要になっています。
停戦後もガザ内で鶏を調達することが難しかったため、エジプトからガザ内に搬入された卵から育てられた若鶏(雄と雌)を調達し、農家に届けました。また配付に先立ち、畜産専門家のガザスタッフによる養鶏技術の研修も実施しました。配付後、2~3週間で、雄鶏は食用肉として販売可能となり、雌鶏は2か月後から産卵を始めることが期待されます。鶏と飼育資材を受け取り、喜びと養鶏への意気込みを伝えてくれた農家の声と、ガザスタッフ(畜産専門家)の声を紹介します。

鶏の配付に先立ち、パルシック職員が全農家を訪問して飼育スペースの安全性や換気の状況などを確認しました

テントが密集するガザ南部のマワーシ地区で飼育可能な場所の調査を行った様子

鶏の配付に向けて定期的に養鶏場を訪問し、鶏の健康状態や衛生環境を確認する畜産専門家
ファディさん
鶏を受け取ることができて本当に嬉しいです。自宅周辺が攻撃を受けて以降、テントでの避難生活を続けてきました。家や仕事、羊も失ってからは食料配付などの支援に頼って生きてきましたが、ようやく鶏の飼育と販売という新たな仕事を始められます。私は、支援に頼って生きるのではなく、戦争前から続けてきた畜産を通して、自分の力で少しずつ生活を立て直していきたいと思っています。畜産の再開が、私たちの人生を変えるきっかけになると信じています。

清潔な養鶏場で十分な餌を食べて育った元気な若鶏
バラーさん
私たちはこの戦争で、家も木々も、鳩や鶏、ウサギも、すべて失いました。かつての生活は消えたのです。しかし、鶏を受け取ったことで、もう戻らないと思っていた日常が戻ってきたように感じています。この鶏は、戦争前のささやかで普通の暮らしを思い出させてくれます。そして、ようやく自分が世話をするものができました。私は毎日、椅子を持ってきて鶏の前に座り、50羽の鶏が動き、食べ、成長する様子を眺めています。一羽一羽の違いも分かるようになりました。彼らはただの鶏ではなく、安らぎを与えてくれる大切な存在です。一歩ずつ、失ったものを取り戻し、鶏を増やしていきたいと思っています。
ワファさん
パルシックの畜産専門家による研修に参加しました。そこでは、鶏を病気から守るために、鶏小屋を清潔に保ち、湿気がこもらないようにすることの大切さを学びました。研修を受けたその日に、さっそく鶏小屋を徹底的に掃除し、地面に新しい砂を敷きました。それ以来、できる限り鶏小屋を清潔に保つよう気を付けています。このプロジェクトは私たちにとってとても大切なものです。ただ鶏を育てるということではなく、失ったものを取り戻し、収入を得ることにもつながっています。私たち畜産農家は、毎日欠かさず鶏の世話に取り組んでいます。

3日間にわたり基本的な養鶏知識から実践方法・疫病対策などを学ぶ養鶏研修
ガザスタッフ(畜産専門家)からのレポート
養鶏による支援活動の準備を始めてから、鶏の調達に長い時間がかかりました。ようやく健康な鶏を配付でき、ほっとしています。満面の笑みで鶏や飼育に必要な資材を受け取った農家や、そのお子さんの顔が忘れられません。「卵が取れるようになったら、ぜひ食べてほしい」と私に話してくれる子もいました。自分たちも卵を食べることを待ちわびているにもかかわらず、それでも私に分けてくれようとする姿に感動しました。鶏を飼育して販売することは、2年以上にわたる戦争で厳しい状況に置かれていた農家が、暮らしを少しずつ取り戻す支えとなり、鶏肉や卵を必要としているガザの人びとにも届けることができる取り組みです。今回、パルシックは農家が畜産を再開できるように鶏を配付しましたが、単なる畜産支援ではなく、希望の種をまく取り組みだと思っています。

鶏の健康状態を一羽ずつ丁寧に確認する畜産専門家

鶏と養鶏資材を受け取り喜ぶ農家
パルシックはこれからもガザの農家とともに、畜産を支え、卵や肉を一人でも多くの人に届けることができるよう活動を続けていきます。
(パレスチナ事務所)
*この事業は日本NGO連携無償資金協力の助成と皆さまからのご寄付により実施しています。
