「羊を守り続けることが、私たちの誇り」―ガザ羊農家の声
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2025年10月10日に停戦合意に至ったガザですが、その後も散発的な攻撃が続き、依然として厳しい状況にあります。そのような中でも、羊農家たちは、羊の飼育をあきらめることなく続けています。
ガザでは9月から11月が羊の繁殖期にあたり、この時期は羊の健康管理や病気への対応がとりわけ重要です。パルシックのガザスタッフは、10月末から11月上旬にかけて獣医とともに羊農家33世帯を訪問し、超音波検査で雌羊の妊娠状況を確認しながら、飼育方法についての指導を行いました。さらに11月中旬には、羊用の薬や、妊娠周期と出産時期を管理するためのカレンダー、そして飼料用として栽培する大麦の種も配付しました。
ここでは、ガザで羊を育て続ける農家の声を、現地で活動する農業専門家のガザスタッフがお伝えします。

爆音によるストレスや栄養不足が続き、雌羊が妊娠することは難しい。
それでも農家は精一杯健康管理を続け、子羊が誕生した

11月上旬、パルシックの畜産専門家と農業専門家が羊農家を訪問し、同行した獣医とともに、羊の妊娠や健康状況を確認しました

11月中旬には、羊の薬に加えて、妊娠周期と出産時期を管理するためのカレンダーを配付。
使い方を説明する畜産専門家

飼料用として栽培する大麦の種を計量し、羊農家に配付
ガザスタッフ(農業専門家)からのレポート
私たちが支援を続ける羊農家は、安全の確保さえ難しく、水や食料も不足するなかで、それでも並々ならぬ努力で羊の飼育を続けています。今回の訪問では、羊の健康状態の確認に加えて、病気や妊娠への対応に関する指導、超音波検査、羊小屋の衛生環境や餌の栄養バランスのチェックを行い、必要に応じてアドバイスをしました。
戦闘が始まってからも、私たちは可能な範囲で羊農家の訪問を続けてきました。そのたびに、彼らの困難を乗り越える力には、深い敬意を抱かずにはいられません。ここからは、羊の飼育に尽力する農家の声をお伝えします。
アフマドさん
「ガザでは圧倒的な食料不足に直面しています。そのため、家畜用の飼料も当然ながら不足しています。しかし、私は戦争以前から栽培していたパニカム(イネ科の植物)のおかげで、羊の飼育を続けることができています。戦争中も、収穫したパニカムの一部を乾燥させ、約300kgの干し草を作ることができました。たとえ羊が高値で売れると言われても、私は手放したくありません。羊は大切な宝物です。水不足や電気・燃料の供給停止、肥料不足など、私も他の羊農家と同じようにさまざまな課題に直面してきました。それでも、幸いパニカムの農地を攻撃から守り抜くことができ、今も羊に与えられています。羊の健康を守り、繁殖を続けられていることを誇りに思っています」
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収穫したパニカムを乾燥させ、粉砕機で干し草を作るアフマドさん
アリさん
「私の農場はイスラエル軍の砲撃を受け、息子が負傷し、4頭の羊が犠牲となり、さらに2頭が負傷しました。これは、この2年間で経験した中でも最もつらい出来事でした。それでも、生き残った羊だけは守ろうと、急いで比較的安全なマワーシ村に移しました。なんとしても全滅だけは避けたかったのです。人間と同じように、羊の命も尊いものであり、守り抜きたいと思っています。私は幼い頃から父や祖父に羊の飼育を学んできました。羊は単なる収入源ではありません。羊の飼育は私の『生き方』そのものです。どんなに状況が過酷でも、羊を手放すつもりはありません」

幼い頃から家族で羊やヤギの飼育を続けてきたアリさん。
攻撃が続く中でも、精一杯世話に取り組んでいる
このように、人生をかけて羊を育てる農家に、これからも私たちはしっかりと寄り添い、支えていきたいと考えています。羊の繁殖を通して、羊農家の収入向上だけでなく、ガザの人びとの食を支えることにも貢献していきます。状況は依然として言葉では表せないほど厳しいですが、私たちは羊農家とともに、ガザの畜産を守り抜いていきます。
(パレスチナ事務所)
*この事業は日本NGO連携無償資金協力の助成と皆さまからのご寄付により実施しています。
