特定非営利活動法人 パルシック(PARCIC)

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タイ国境出張レポート:子どもたちの笑顔と元気な声があふれる移民学習センター 前編

  • 活動レポート

移民学習センター(以下MLC)支援の事業が開始して5か月、新学期が開始してからちょうど3か月が過ぎたタイミングで、現地の様子を見に行ってきました(2025年9月)。パルシックが事業を行っているすべてのMLCで、子どもたちが本当に元気に楽しそうに学び、遊んでいる姿を見て、どんな環境でも力強く生きていく子どもたちのパワーを改めて感じました。また、自身もミャンマーから逃げてきて様々な困難を抱えながらも、難しい環境・状況の中で子どもたちにより良い教育を、生活を、と愛情を惜しみなく注いでいる先生方の姿も目にしました。

サトウキビ畑(エタノール用)とコーン畑(飼料用)のプランテーションの中の土の道をぐねぐね車で通っていくと、葉っぱと木でできた簡素な家がいくつか目に付き始め(タイからのミャンマー移民*が住んでいます)、さらに奥に行くとニャアタリMLCがあります。私たちが訪れたのは、ちょうど最後の授業が終わったタイミングでした。家族がミャンマー国内にいるため寮で生活をする子どもたちは、遊んだり、その日の当番の仕事を始めていました(どこのMLCでも、食事の準備、学校の掃除、寮の掃除等、子どもたちの当番の仕事があります)。家族とともにタイで生活している子どもたちは、畑の中の道を帰っていきました。

3,4歳の小さなこどもから、7年生の子どもたち、101人がこちらで学習をしています。現在は幼稚園から7年生までを受け入れていますが、来年度は地域の親の要望に応え8年生まで受け入れる予定です。ミャンマー移民の要望に応え、受け入れる学年をいくつものMLCでは上げています。

*タイは「難民の地位に関する1951年の条約」を批准していないため、ミャンマー難民を「移民」と呼びます。

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寮のごはんは子どもたちが当番で作ります。この日は夕食のためにバナナの花のサラダを作っていました。

ターク県の中でも最も貧しい地域である県北部のターソンヤー郡にあるMLC、緑の茂った山の斜面を下っていくとグローリーMLCがあります。緑に囲まれていて本当にきれいな景色の中にあります。しかしながら、山の斜面に作られていることもあり、特に雨季の生活はとても厳しいことが想像されました。

こちらのMLCでは、59人が学習しており、そのうち54人が寮生活で生活しています。一番小さな子は2歳で、一番年上は6年生です。こちらのMLCには、カレン州の特に戦闘の激しい地域から逃げてきた子どもが多く、車で4日、歩いて10日の距離を逃げてきた子どももいました。距離的にはそれほど遠くないそうなのですが、道中にミャンマー軍の基地があり、チェックポイントがあり、また地雷を避けて移動するため、それほどの時間がかかるのです。

また、私にいろいろ説明をしてくれた先生は、なんと17歳。英語がとても上手です。メラオキャンプという難民キャンプ(このMLCから車で山の中を3時間弱の距離)出身の先生で、キャンプで英語を学んだとのことでした。今回の滞在中、難民キャンプ出身の人で英語がとても上手な人にたくさん出会いました。キャンプでは、英語のほかに、タイ語の教育もされているとのことです。事業を一緒に行っているタイのNGOスタッフの一人も、難民キャンプ出身で、ビルマ語、カレン語、英語、タイ語がとても堪能です。そして、タイ・ミャンマー国境エリアで仕事をするには、これらの言語が必須なのです。それほど、様々な民族が入り混じっているエリアです。

子どもたちは放課後、サッカーやバレーボール、チンロン(ミャンマーで大人気の籐でできた球を蹴るスポーツ)で遊ぶのが大好き。また、将来の夢を聞いてみると、大工さん、お医者さん、お店屋さんというかわいい答えが返ってきました。

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小さな子どもから10代の子どもまでが学んでいます。

途中で小さな集落により、昼食をとりました。そこでは、ミャンマーの10代の女子生徒を5人、自宅で養っているというタイの女性にたまたま出会いました。彼女自身は、チリパウダーを米国などに売る事業で生計を成り立たせているようで、両親と住む自宅で、学習を続けるために一人でタイに逃げてきた10代の女の子たちを支援しているとのことです。タイのNGOスタッフによると、この国境地域ではそのようなことはよく見られるとのこと。家族が家族を支えるのと一緒のことだよ、と話していたことが心に残っています。

次に訪れたのが、エマヌエルMLCです。こちらでは、53人の子どもたちが学習しています。パルシックが事業を行っているすべてのMLCに、寮やMLCの子どものための食料を毎月1回配っていますが、ちょうど食料の配達日でした。前日のうちに、事業を一緒に行っているタイのNGOのオフィスに卵、チリ(ミャンマーの食事に欠かせないフィッシュペーストの材料)、ニンニク、マメ、乾麺、その他の食料が準備されていました。そして配達する当日、メーソットの市場で、生の豚肉、鶏肉、生きた魚(ナマズ)など、それぞれのMLCの要望に応えたたんぱく質類を調達します。

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手前がMLC、奥の山々はミャンマーです。タイ側から見えるミャンマーは、戦闘が行われているとは思えないとても美しい緑の国です。

次に、ティモクロMLCを訪れました。こちらでは、先生たちにいろいろ聞き取りをする中で、新たなニーズに気づきました。『教科書』です。MLCでは、教師のための教科書しかないため、先生はまず、黒板やホワイトボードに教科書の内容を書き写します。その間、子どもたちはじーっと待っています。日本では当たり前に無料で配布されている教科書ですが、MLCの児童、生徒は、教科書を持っていないことが分かりました。先生と話し合い、生徒用の教科書を印刷することにしました。

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それぞれの学年で必要な部数をマスキングテープに書いて張り付ける作業をする先生たち。

この日最後に訪れたのは、マクウィMLCです。幹線道路から、泥の道をかなり進むと、簡素な家がいくつも並び、そこにはミャンマー移民が住んでいます。その先に小さな川があり、手前で車を降りました。橋を渡って少し歩いたその先に、MLCがあります。こちらでは、250人が学習しており、そのうち84人が寮で生活しています。私が訪問したその日、対岸のミャンマー側で激しい戦闘があり、12人の子どもたちがタイ側に逃げてきました。MLCで受け入れられる子どもの数を超えているのですが、緊急事態なのでその子どもたちを追加で受け入れることになりました。

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大好きなチンロンで友達と遊ぶSくん(右)。合間に、届いた食料を保管する部屋に入れていました。

10年前からこのMLCの寮で暮らしているSくんは、現在10年生の17歳。英語が好きで、将来は看護師になり、故郷の村で働きたいと話してくれました。彼の家族(両親、一人の弟、3人の姉妹)は、カレン州の中でも特に戦闘の激しいエリアに住んでいるはずだけど、5年間家族に会っていないので兄弟姉妹が学校に通えているかなどはわからないとのことでした。家族にそれほど長い間会えていないは、治安の状況が悪いことと、経済的な理由からです。

このMLCで働き始めて2年目の教師、B先生からも話を聞くことができました。B先生は、タイとの国境にある学校で勉強したのち、こちらに来ました。5年生から10年生の算数を担当しており、また寮の管理も担当しています。子どもたちに算数を教えることがとても好きで、特に子どもたちが集中して話を聞いてくれる時がうれしいと話してくれました。

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女子生徒は、タイ人の家を借りて生活。先生やお医者さんになって故郷の村で働きたいと話してくれました。また、キャビンアテンダントになりたいと話してくれた子は、お姉さんに付き添われてMLCに来ましたが、お姉さんもそのまま先生としてMLCに残ることとなったそうです。

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