特定非営利活動法人 パルシック(PARCIC)

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激動する世界で、人びとの「日常」を守り、伝える ~パルシック代表理事鼎談、2024年を振り返って~

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左から:大野容子(共同代表理事)、伊藤淳子(共同代表理事)、穂坂光彦(共同代表理事)

2024年度のパルシック活動計画において、重点的に取り組むとした項目について、共同代表理事3人が振り返りました。(2024年度活動計画はこちら

緊急支援の多かった2024年。
惨状だけでなく、そこにある「生活」を伝える

―まず、2024年度の活動計画で重点的に取り組むとしたことに「現場のリアリティを問題提起に結びつける」とありますがそれについていかがでしょうか。

大野: 2024年の活動計画を書いたときは、まさかこんな世界になるとは思っていませんでした。パレスチナの情勢が悪化し、ミャンマーの混乱、さらには先進国の分断……。「あっちもガラガラ、こっちもバラバラ」という状態でした。緊急支援の比重がとても大きくなった一方で、東ティモールやスリランカなど、開発支援の積み重ねが救いになったと感じています。

伊藤: 確かに2024年の活動は、現場にいるスタッフたちが、その目線で、厳しい状況にある人たちの声をどう日本の人たちに届けたいかという思いがよく反映されていました。ミャンマーとパレスチナの連続講座は、日本では報道が減っていくなかでも、毎回参加者が一定数いて、現場の声を聞きたいという思いを持っている方々が確かにいる。その人たちにはその思いは届いていると感じました。一方で政策変化への働きかけについては、私たちが望むようにはいかない、むしろ逆方向に進むこともあって、1年のなかで成果を出すのは難しいと感じました。

穂坂: 重点課題の1つ目は、アドボカシーと広報に関するものでしたね。かねてより特にパレスチナやミャンマーでは、現場のスタッフを危険にさらすことにならぬよう配慮しつつも、私たちもアドボカシーに踏み込む必要があると感じていました。が、専門人材やネットワークが十分ではありませんでした。それでも、大野さんが加わったことでこの面も強化され、他のNGOと連携してロビイングに力を注ぐとともに、市民社会へ向けても発信できたのは大きな前進でした。

イベントや各地巡回やウェブ発信などを通じて現場の生活者の声を届け、また日本の市民の声を現地の人びとに返す。それを背景にさらに他団体と連携して政策変化への声を上げる。そういう「パルシックらしいアドボカシー」はできてきたと思います。

大野: ちょうど今日、「ガザの恒久的停戦と、パレスチナの和平を求める」と題したNGO合同記者会見にパルシックの担当者も登壇したのですが、パルシックが現場からのビデオを流し、ガザの人たちの生活の様子をそのまま伝えることは、とても大きなインパクトがありました。「羊を飼っています」、「作物を育てています」といった映像から、単なる惨状だけではない生活のリアルが伝わるんです。もちろん状況は困難ではあるのですが、人びとがどう生きているかという日常の力強さが映っている。それがパルシックの特徴だと改めて感じましたね。

穂坂:それは、国内の活動にも当てはまることですね。能登の駐在スタッフは、農家さんが「農業は生きがい」と語っていたことを受け止め、また別のスタッフは「能登では地域の中に米も野菜もあって、それを分け合って生活ができる。それで震災後も生き延びられた」という現地の人たちのエピソードを紹介していました。「生活再建」とは、経済的な回復だけでなく、人と人との支えあう関係性の再構築でもある。そこに住む人たちが何を守っていて、何を目指しているか。そこからこそ復興も支援も出発すべきです。そして、そのことを伝えていくのもパルシックの大切な取り組みです。そうした発信がアドボカシーにもつながっているのだと思います。

「知る」から「動く」への一歩を後押しする

大野:それとパルシックは「モノ」があるのが強い。コーヒーや紅茶など、現地とつながる具体的なものがあると、支援の実感が持てるんです。

伊藤:フェアトレードと連携して、報告会という形でパレスチナの話を届けたこともその一つですね。パレスチナからデーツが届いて、「自分も何かしたい」という人たちにアクションの場を作れたのは大きい。商品という“手段”を通して誰もが関係を構築できる。それがやっぱりパルシックの強みだと思います。

大野:NGOの活動に関わっていると、講演会や記者会見などの場で、「日本にいる私たちには何ができますか?」といった質問をいただくことが本当に多くあります。多くの場合、「募金してください」「知ってください」「周囲に伝えてください」といった答え方になるのですが、パルシックの場合は、それだけではありません。現地の人たちの汗や涙、心がこもったモノが、ちゃんとそこに介在している。それが、今言ってくれたように「デーツが届いている」という実感につながる。そこにはプラスアルファの何かがある。それが本当に大きいと思うんです。

私は、日本社会において、どんなことでもいいから、一人ひとりに「行動してほしい」と思っています。署名でも、フェアトレードの商品を買うことでも構わない。日本や世界の問題を前にしたとき、「これは問題だな」と思った人が、そこから一歩を踏み出すきっかけが必要です。

特に若い世代にも、それがあってほしい。そして、フェアトレードの商品を手に取り、その背後にあるストーリーを知ることは、その一歩としてとても大きな意味があります。これもまた、パルシックの大きな強みだと思います。コーヒーも紅茶も、私たちがつなぎ続けてきたモノがあるということが、本当に重要だと感じています。

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チャレンジファンドの創設。「対象」から「主体」へ。プロセスを支える資金づくり

―それでは次に、「現地の人びとの自立的な生計とコミュニティ再建の道筋を見いだす」という目標についてはいかがでしょうか。

穂坂:パルシックは単発の救援を越えて、長期的に現地の人びととつながり、支え合うことを目指しています。その際に、緊急支援から生活再建、フェアトレードまでを直列の一方向で考えるのではなく、緊急状況のさなかにも、将来への人びとの思いをくみとり、いま手にしているものを互いに確かめながら、何ができるかを一緒に考えていきたい。今進めているミャンマーのコーヒーやパレスチナのデーツ輸入などがそうですね。団体としては、そこで民際協力とフェアトレードとの部門間協働の蓄積ができてきたことが重要と思います。

伊藤:緊急支援の現場であっても、パルシックのスタッフは、常に生活者の目線で物事を捉えようとしています。この視点は、長年の活動を通じてパルシックの中に根づいてきたのだと実感しています。

―ただ一方で、緊急支援が終わると助成金がつかなくなってしまうという資金面の課題があると思います。今年、「創造的な資金運用」としてチャレンジファンドを創設しましたね。

伊藤:チャレンジファンドは、助成金の枠に収まらない現地からの発想に、パルシックが自己資金で柔軟に対応しようというものです。ファンドの利用は必ずしもパルシックのスタッフに限定されるものではなく、現地で活動を共にしてきた人びとのニーズに応えるための資金として、住民組織なども対象となり得ます。つまり、パルシックだけの課題にとどまらず、もっと広い可能性を持つ仕組みとして存在しています。こうした性格を、団体内でもしっかりと理解し共有していくことが、これからの課題だと感じています。

穂坂:私は助成金が団体収入の7割を占めたとしても、それ自体が問題とは思っていません。ただその中で私たちが陥りがちな問題は、住民を「裨益者=受け身の支援対象」とのみ見なしがちなことです。本来、住民は自ら考え、行動する主体です。助成金プロジェクトでは、目的、時間枠、資源要件が予め特定され、ゴールを達成したかで評価されますよね。それは個々の介入局面では大切としても、総体として見るとパルシックがやろうとしているのは、そこにいる人びとと、ともに考え行動することです。それは「プロジェクト」に収まらない、連続する変化のプロセスそのものです。それをこのファンドで支えていきたいのです。

海外と国内――「違い」から見えてくるものと、「共通する取り組み」とは

大野:活動計画で掲げていた「東ティモールやスリランカのプロセスを振り返り、各地スタッフの成長につなげる」という組織基盤に関する取り組みは、正直なところ、あまり実現できていないと感じています。これは誰か個人の責任ではなく、団体として意識的に取り組む仕組みがまだ整っていなかったからだと思います。

その背景には、人材採用の難しさもあります。特に民際協力部門では、必要な人材をなかなか採用できず、たとえば能登などでは本当に苦労しました。他のNGOの方々とも話していても、「人が集まらない」という声は共通していて、これは業界全体の課題です。

能登での取り組みを見ていて、改めて感じるのは、国内支援には国内ならではの難しさがあるということです。たとえば「東ティモールの経験を活かそう」と言っても、文脈が違いすぎて、簡単には通用しない面があります。けれども、だからといって国内の取り組みに海外での経験がまったく活かされないというわけではありません。むしろ、国内でこそ、私たちが大切にしてきた「生活に寄り添う支援」や「人と人とのつながりを重視する姿勢」が、あらためて問われるのだと感じています。

―フェアトレード事業についてはいかがですか。

穂坂:フェアトレードは、下手したら、輸出向け単一作物生産者と、遠方からエネルギーを費やして輸入する消費者といった商品化された関係に還元されてしまいます。それを抜け出る一つの道は、フェアトレードの両端での地域づくりではないか。

例えばスリランカでは、小規模生産者組合が紅茶の出荷だけではなく、自分たちのショップをつくり、堆肥センターやエコツーリズムなど様々な活動を地域で企画し、洪水時には被災者救援活動を行うなど、地域に根ざした活動へと展開している。東ティモールでは、アグロフォレストリーのように栽培を多様化し、顔の見える市場向けに女性たちが花を育てている。コーヒー生産者組合が地域づくりの担い手となっている。それに対応するような日本の動きもありますね。

岐阜県垂井町のフェアトレードデイのイベントでは、社協、福祉作業所、まちづくり協議会などいろんなアクターがやってきて、有機栽培した作物が地産地消で持ち込まれ、新しい交流が生まれたり、フェアトレード事業者同士が結ばれたりします。それがフェアトレードが今後目指すイメージの一つでしょう。実際この1年に、フェアトレードでつながる各地の方々が、能登やパレスチナへの支援を担って下さったというのは、私たちにとって、とても心強い経験でした。

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人びとの「居場所」をつくるということ。
支援の現場から見えた日常の強さと希望

―最後に、2024年度の活動のなかで印象に残った出来事を教えてください。

穂坂:ひとつだけ挙げると「居場所づくり」です。これは国内でも海外でも共通して取り組んできたことですが、「誰にとっても社会の中に居場所がある」というインクルーシブな地域のあり方が、今のような断絶や抑圧の時代において、ますます大切な仕掛けだと感じています。

たとえば「みんかふぇ」では、以前はフードパントリーに来て食料を受け取る側だった方が、やがてボランティアとして活動に加わり、時には子ども食堂に寄付しながら食事していく立場へと変化し、それでもまた必要があればフードパントリーを利用するような、支援の「対象」と「主体」の循環が生まれています。ある方は「ただ与えられるだけではなく、自分もここを一緒につくっていきたい」と語っていました。みんかふぇが居場所となり、そこでの関係性が新しい主体を生み出したといえるのではないでしょうか。

同じような変化は、海外事業地でも見られます。たとえば東ティモールのコーヒー生産者協同組合「コカマウ」は、物理的というより社会的な居場所として、地域の人たちにとっての拠り所でもあります。そこでスタッフと住民が独自のアイデアを出し合い、作業の共同化が始まり、水道工事が組合の枠を越えて地域全体に広がるといった展開も見られました。

こうした「居場所づくり」の経験蓄積は、国内外の活動を通じて学び合う可能性の一つを示しています。実際これまでもパルシックは、シリアからの難民やインドネシアの被災した子どもたちに対して、あるいは能登を含む国内被災地で、ホッとできる空間、集まって将来を語り合える「場」を設けることを試みてきました。こうした経験を方法として意識することで、戦乱・災害後の現場、そして生活再建を支えあうプロセスの中に、今後も生かしていけると思います。

伊藤:今のお話を聞きながら、「居場所づくり」という言葉の意味が、私が思っていたよりもずっと広く、深いものだと感じています。

私が印象に残っているのは、パレスチナの女性組合の話です。戦禍の中でも彼女たちは、手に入る材料を使ってチーズを作り続けていました。その姿が、私にはとても衝撃的で、強く印象に残っています。彼女たちにとって、あの場が「居場所」だったのだと思います。自分たちが作ったものが、必要としている誰かのもとに届き、喜ばれる。そのことが彼女たちのエネルギーになっていた。

それは「居場所」という言葉で表現されていなくても、まさにそうした機能を果たしているのだと気づきました。東ティモールのコカマウと同じように、パレスチナの女性組合もまた、そうした居場所の一つだったのだと思います。

大野:キーワードはやはり「生活」、もっと言えば「日常」なのだと強く感じました。私たちが守りたいもの、支えたいものは、人びとの日々の営みなんですよね。それは日本の人たちにとっても、世界中の人たちにとっても共通するものだと思います。

NGOの「現場」と聞くと、貧困や惨状というイメージを持たれがちですが、パルシックの現場は、驚くほど日常に満ちています。たとえば、パレスチナでチーズを作っているお母さんたちの姿は、決して「特別な支援対象」ではなく、日々の営みを粛々と続ける力強さにあふれていました。そうした生活の力こそが、パルシックの活動の根底にあるものだと、今回あらためて強く実感しました。

人と人とのつながりの根本にあるのは、「同じ人間なんだ」という視点。それを持って関われるのが、NGOの強みです。国境を越えて、人の視点でつながっていく。その姿勢を、これからも大切にしていきたいと思います。

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(収録:2025年3月28日)

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