スリランカ・デニヤヤでの紅茶事業 ~有機栽培への期待と拡大の難しさ~
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事業開始から現在まで
2024年6月にJICA草の根技術協力事業での有機茶栽培の生産性を上げる事業を開始してから、1年半が経とうとしています。この間に、近隣国のネパールやスリランカ北東部のトリンコマリで研修を受けたり、茶木の間隔が空いていたところに苗木を植えたりと、圃場を改善するための取組みをしてきました。
事業に関心をもって、「有機栽培を始めたい」と研修をきっかけに有機転換に取り組み始めた農家もいますが、同時に「有機栽培は労力を要する割に、生茶葉の買取価格が思ったよりも高くならない」と有機栽培を断念する人たちもいます。
一方で、以前有機栽培に挑戦したものの中断した農家が、地域を巡回するパルシックの現地スタッフから話を聞いて、「再び有機転換に取り組みたい」と活動に加わりました。多くの農家が有機転換を進められるように試行錯誤しながら事業を進めています。

茶の苗木を配付するパルシックのスタッフ

圃場の空いていた場所に植えられた茶の苗木
新たに活動に加わる地域
この事業では、小規模茶農家を支援するスリランカ政府機関(小規模茶農家開発局:TSHDA)との連携を強め、TSHDAの茶専門家と密に連絡を取り合っています。今年に入ってTSHDAからの勧めもあり、デニヤヤ地域にあって、これまでパルシックが対象としていなかった村で有機栽培に関心を持つ農家十数人が有機栽培の研修に参加しました。
ボーデニヤ村の茶農家の代表のソーマヴィラさんは、20年来この地域の環境保全[i]に関わってきた方で、「長年茶栽培をしてきた経験から、化学肥料をたくさん使ったところで、良い効果が得られるわけではないということを実感してきた」と言います。ご自身は化学肥料を使わずに栽培を続けてきましたが、有機認証取得の機会がなく、一般的な非有機茶葉として出荷してきました。
今回パルシックが事業を拡大したと知り、他の農家とともに研修への参加を希望したとのことです。「ますます環境にやさしい産品への需要が増えており、環境に配慮した持続可能な有機栽培に転換するよう、地域の他の農家にも声をかけていくつもりです」と力強く話してくれました。
[i] デニヤヤ地域はシンハラージャ自然保護区に隣接し、他の地域以上に環境保全への意識が高く、環境保全の活動が行われてきました。

TSHDAによる苗木の植え付け研修の様子

パルシックスタッフと話をするソーマヴィラさん(左)
有機転換の広がりの難しさと今後に向けて
パルシックがフェアトレード商品として輸入・販売している紅茶は、農家が収穫した生茶葉を、地域の民間の有機加工場が買い取り、加工し出荷されたものになります。茶葉の買取価格は基本的には、その加工場が決定することになり[ii]、有機に転換したからといって必ずしも農家の期待どおりに茶葉の買取価格が上がるわけではありません。さらに有機茶栽培は、手間がかかり、転換した後の一定期間は収穫量が下がります。
農家は有機栽培によって茶葉代がものすごく値上がりすることを期待する場合がありますが、その期待値が高すぎるという話も耳にします。農家が実感として有機栽培の労力に見合った茶葉代になっていかないと、有機圃場は広がっていきません。
今年に入って新たに生茶葉の出荷を始めた加工場とは、定期的に話し合いを持ち、そのたびに農家側は買取価格について尋ねますが、加工場からは「茶葉代を上げるには、品質のいい茶葉であることが条件」という答えが返ってきます。加工場とも対策を話し合いながら、改善に取り組んでいきます。
[ii] 化学肥料や農薬を使う慣行農法による紅茶は政府の管理下で実施されるオークションで価格が決まり、生茶葉の買取価格はオークション価格をもとに算出されます。一方、有機紅茶はオークションで取引されないことが多いことから、加工場によって価格設定が行われています

新たに事業に参加した農家の茶畑を訪問するパルシックスタッフ
パルシックでは、今後、農家が研修を受けて生産を始めた堆肥の品質を上げ、さらに堆肥の生産量を増やし、施肥を十分に行っていくことを指導するとともに、「一芯二葉[iii]」による品質のよい茶をつくるための摘採の方法も繰り返し伝えていきます。
新たに有機転換に取り組み始めた農家の疑問・質問に答えたり、悩みを聞いたりと、フィールドオフィサーが定期的に巡回し、苦労の多い有機転換を支えていきます。
[iii] 茶の新芽の先端にある「芯」と、そのすぐ下の2枚の柔らかい葉の部分を指して、「一芯二葉」と呼びます。この柔らかくうまみが凝縮された部分だけを摘むことで、品質の高い茶が作られます。

農家を巡回し記録をつけるパルシックのフィールド・スタッフ
(スリランカ事業担当 西森光子)
*この事業はJICA草の根技術協力事業の業務委託を受けて実施しています。
