特定非営利活動法人 パルシック(PARCIC)

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ガザの停戦を受けて-現地からの報告-

  • 活動レポート

5月9日から5日間、イスラエル軍とガザの抵抗勢力組織の間で衝突が起こり、ガザ全域が空爆の被害を受けました。ガザ全域で181名が死傷し、948名がガザ地区内で避難を余儀なくされているほか、940戸の住宅が破壊や損壊等の被害を受けたと報告されています。 また、イスラエル側もミサイルの攻撃を受け38名の死傷者が出ています(*)

私たちの畜産支援の活動地であるハン・ユニス県も空爆を受けました。5月17日現在、幸い関係者全員の無事を確認できています。また、空爆中に参加農家から羊の容態や避難方法などの問い合わせを受け、畜産専門家を中心に電話対応を続けたことで、羊の被害も出ておらず、皆で安堵しています。

ガザ事務所の同僚たちは空爆のたびに家が揺れて、家財も損傷し、爆音に苛まれたと言います。特に夜にかけて空爆が激しさを増すことから、同僚を含めてガザの人びとは極度の緊張感で眠れない夜が続き、疲れ果てたとのことでした。そのような中でも、この状況を日本の皆さんにも知ってもらいたいと、ガザスタッフ2人が状況を教えてくれました。

ガザスタッフの声を届けます

ガザ事務所のサハルは空爆が続く中、メッセージをくれました。

「私たちはこれまで何度も空爆を経験しています。私も2008年の空爆で兄弟を亡くし、その悲しみは今も癒えることはありません。しかし、この繰り返しに慣れていて、交戦中の現在も空爆の懸念はありますが、中断している仕事の方が気がかりです。しかし夜になると、子どもたちや4人の孫が心配で、愛する人を失う怖さに苛まれます。自分自身の命よりも、愛する子どもや孫たちを失うことだけは絶対に受け入れられません。ガザ域内の速報ニュースで、子どもが泣き叫ぶ映像や親を失って孤児となった子どもを見ると、胸が潰れそうになるのです。」

日頃は快活でエネルギーに溢れ、ガザ事務所全体にとって頼れる肝っ玉お母さんのようなサハルですが、生まれも育ちもガザである彼女の深い悲しみを感じずにはいられませんでした。

11歳、6歳、1歳の子どもの父であるガザ事務所のシャディは、爆弾が投下されて爆音が鳴り響くたびに子どもたちが泣き叫び、彼らを落ち着かせるために必死だったと言います。

「空爆中の緊張状態では時間の経過を遅く感じ、心身ともに疲弊します。そのため、少しでも子どもたちの気を紛らわせようと必死でした。交戦が始まり、外出をしないよう家にいましたが、2日目以降子どもたちも退屈し始めました。外出は危険なため、極力室内で楽しめるよう映画を観せたり、水遊びをさせたりしました。そして爆音が始まると『火事かもしれないね』『空爆ではなくて、外でパーティーしている音かもしれないよ』とユーモアを交えて誤魔化し続けましたが、さすがに11歳の娘は私が嘘を付いていることに気が付いています。彼女は既に何度も空爆を経験していますから。それでも、子ども達に『大丈夫だよ、大丈夫』と言い聞かせるしかありません。他方、6歳の息子は2021年5月の空爆以降、発語に問題を抱えています。今回の空爆の影響も心配です。1歳の息子も以前は怖いもの知らずの活発な子でしたが、今では一人でいることを怖がり、空爆が始まると走り寄ってきました。彼は『ボンボン(アラビア語でタハタハ)』と空爆の音を発することが増えました。」

このように幼少期から空爆を経験することは、子どもたちのPTSD(心的外傷後ストレス障害)にも繋がり、多感な子ども時代の悲痛な経験は、その後の発育や人生観に計り知れない影響をもたらします。もちろん親の子を心配する気持ちも計り知れません。今回の空爆で、55人の子どもが死傷しました。 愛する子どもを失ったご家族の行き場のない悲しみは想像を絶するものです。

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爆弾が投下した直後(gaza MAJDI FATHI – AFPより)

停戦から数日経過し、同僚たちは支援対象者である女性100名や農家の男性たち、また女性組合員の安否確認に追われ、睡魔と闘いながら中断された業務の再開に向けて忙殺されていました。長い年月にわたって繰り返される暴力を受けて、積み重なった自身の心の傷に蓋をし、働き続けることで日常を取り戻そうとするように、彼らは休むことを嫌うのです。

私も同僚たちとの気力とエネルギーに鼓舞されています。2007年以降イスラエルに軍事封鎖されたガザに平和と安寧がもたらされるためには、国際社会を含めた政治的解決が不可欠であり、それは容易ではありません。今回は幸いなことに事業関係者の人的な被害や羊の被害などは確認されていませんが、インフラが破壊され、農地なども爆撃を受けたことから、支援対象地域が回復するまでには時間を要することが予想されます。パルシックの畜産事業も、行政や関連省庁から安全面での許可が出るまで再開が困難な活動もあります。

これからもチーム一丸となって冷静かつ辛抱強く、参加者の皆さんや羊の安全に考慮しながら事業を進めていきたいと思います。ガザへの空爆が続く中、パルシックの現地スタッフや、支援をしている小規模農家の皆さん、また女性組合の皆さんの身を案じてくださった皆さまに、心より感謝申し上げます。

*Humanitarian situation in Gaza | Flash Update #4 as of 17:00, 13 May 2023 – occupied Palestinian territory | ReliefWeb(2023年5月13日時点))

(西岸事務所 ガザ事業担当 吉田)

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