祖国シリアに電力を ~ソーラーパネルにかけるムハンマドさんの挑戦~
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こんにちは。レバノン事務所のアンソニーです。
夏の終わりにもかかわらず、シリアとレバノンでは依然として高温の日々が続いています。今年は、激しい干ばつ、高温、そして電力不足が重なり、シリアの人びとにとって非常に厳しい一年となっています。昨年政権が崩壊した後、新政府は暗闇に沈んだ国を再建するという途方もない課題に直面しています。
電力危機
シリアでは、内戦中に主要な発電所が破壊されたため、国内の電力需要をまかなえる状態ではなくなりました。この10年間、多くのシリアの人びと、特に農村部の人びとが利用できる電力は1日わずか2〜4時間に限られています。食料品の冷蔵や携帯電話の充電といった、私たちにとって当たり前のことが、シリアの一般の人びとにとっては「贅沢」になっています。国連によれば、電力危機は「食料」と「生計支援」に次ぐ3番目に深刻なニーズとされています。
さらに、この電力危機は、状況が悪い農業や畜産など他の分野をも悪化させています。シリアは現在記録的な干ばつに見舞われており、気温の上昇により作物が枯れています。電力不足のため、夏季に作物に水を供給するためのポンプを動かすことができません。また、かつては天水に頼っていた地域でも、気温が高くなるタイミングが早まった関係で小麦に散水が必要となっています。畜産業も深刻な打撃を受け、放牧地の不足や飼料価格の高騰によって家畜数は40%減少しました。
一部の農家はソーラーパネルを導入してポンプを稼働させていますが、多くの農家は依然として燃料発電機に頼らざるを得ません。しかし、燃料価格は上昇を続け、人びとの家計の収入は伸び悩んでいます。このような状況の中で、多くの小規模農家は土地を手放し、より手っ取り早く収入を得られる日雇い労働にシフトしています。

農地に設置されたソーラーパネル
太陽光発電と電力網
アサド政権崩壊後、人びとは暮らしを良くしようと、自ら電力確保に向けて動き始めています。かつて政権が独占していた輸入が自由化されたことで、エネルギー需要を満たそうとする事業者たちが登場しました。パルシックが行っている小規模ビジネス起業支援活動では、電気工事の経験を活かしてソーラーパネルの設置ビジネスを開始した方がいます。その一人が、ムハンマドさんです。彼は生計手段としてソーラーパネルの販売を開始し、需要の高さを追い風にビジネスを広げています。そんなムハンマドさんはインタビューで次のように語ってくれました。

ソーラーパネル横に立つムハンマドさん
ムハンマドさんへのインタビュー
私はハマー県出身のムハンマドです。2024年にシリア北部から故郷の村に戻ることができました。
戻った当初はとても大変でしたが、パルシックが行っている小規模ビジネス起業支援に応募し、助成金で事業を始めました。シリアでは電力網が不安定だったので、私はソーラーパネル設置の事業をすることにしました。幸い必要な経験もあり、まだソーラーパネルのビジネスをしている人は少なかったので、はじめてすぐに事業は成長し始めました。
今年は、再開されたダマスカスでの国際展示会に足を運び、海外からの新しい技術や製品を知ることもできました。インドから優れたバッテリーを輸入している業者と出会い、バッテリーの正規販売代理店になる契約を結ぶことができ、ビジネスの広がりを感じています。

ソーラーパネルを設置中のムハンマドさん
治安面での変化も感じます。以前は、町から町へ移動するだけでも大変でしたが、今では、県を越えて移動しやすくなりました。移動や資材の輸送に問題はなく、深夜0時に作業を終えても、不安なく帰宅できています。
将来的にはショールームを持ちたいですし、卸売業者になれればと考えています。自分のチームを作り、パネルの設置を任せられるようにしたいです。私は仕入れや全体のマネジメントを担当するつもりです。
私の事業目的の一つは国の再建にあります。政権崩壊後、人びとは移動しやすくなり、経済も少しずつ動き出しています。自分たちが国を再建・活性化する流れの一部になれているという誇りと達成感を感じます。神に感謝しながら、未来に向かってこれからも取り組んでいきます。

誇らしげに立つムハンマドさん
一丸となって
新政権も送電網の復興に向けた計画を開始しています。このプロジェクトは3段階に分かれており、まず緊急対応、続いて1〜3年の再建段階、最後に長期的な全国電力供給の実現という構想です。この計画は、米国によるエネルギー制裁の解除と、カタール・トルコ・米国との協力による代替発電所やガス発電所の建設合意を背景に進められています。
私たちは、生計手段や生活を支える活動を通じて人びとを支援することにより、農村の経済を活性化させ、やがては農村の人びとが国のあちらこちらで生まれている大規模な経済活動に参加できるようになるよう、引き続き後押ししていきたいと考えています。
(レバノン事務所 アンソニー)
*この事業は、ジャパン・プラットフォームの助成および皆さまからのご寄付により実施しています。