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レバノンの山田君 ~インターン日誌~ Vol.6 レバノン、若者の革命のエネルギー

  • コラム

みなさんこんにちは、レバノン事務所インターンの山田です。

現在レバノンでは、国を挙げての大規模なデモが繰り広げられています。今回はその様子を少しだけ紹介したいと思います。

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ベイルートの中央銀行前で発煙筒をたく人びと

そもそも抗議活動が起こったきっかけは、10月17日に政府が新たな税政策を打ち出したことにありました。国の借金が膨らんでいくのを止めるための緊縮財政政策の一環として、消費税増税などを発表。その政策の1つに、人びとやレバノン事務所の職員も日常的に使用する、スマートフォン用アプリを使った無料通話への課税が含まれていました。この政策が発表されると、その日のうちに大規模デモが国中に広がったのです。

アプリ無料通話への課税などについてはその後すぐに政府から撤回があったものの、デモの参加者は減らず、むしろ日に日に増えていきました。その背景には、低迷する経済と既存の政治体制への大きな不満があるそうです。レバノンでは古くから宗派制度というシステムが導入され、宗派ごとの人口比率に基づいて宗派政党に国会の議席が割り振られ、内閣の役職が分配されています。このシステムが長い間維持されてきた結果、汚職が横行したり一部の特権階級が権力を握り続けたりできる構図が出来上がってしまったのです。国の借金のために人びとに新たな税が次々とかけられ負担が増えていく一方、政治家やごく少数の富裕層が甘い蜜を吸い続ける。その状況を変えよう、今の政権を倒してレバノンを民衆の手で既存の政治家から取り返そうという思いが、人びとをデモへとかりたてました。

首都ベイルートの主要道路や国内のハイウェイは軒並み封鎖され、人びとはベイルート中心部の広場に集結しました。アラブの春の際に各地で叫ばれた「Thawra(革命)」という言葉が再び使われ、彼らは毎晩のように革命を叫んでいます。デモの開始から1か月以上が経ち、勢いは大分和らいだものの、それでも衝突の混乱の中で死者が出るなど、依然として高い緊張状態にあります。

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広場に集まりデモを行う人びと

デモ自体は比較的平和なもので、老若男女が参加しています。従来であれば宗派ごとのコミュニティに分かれて固まっていたものが、今回のデモでは宗派の垣根を越え、一様にレバノン国旗を掲げ “レバノン人” というアイデンティティで一致団結しています。南北をつなぐ主要道路170㎞に人びとが一列に並び連帯を示す “人間の鎖” も、国内外で大きな話題になりました。

デモのおこなわれる広場で感じたのは、特に若者の数が非常に多いことです。大学では、教師が自らの意思を発信する機会を求めて授業のストライキを起こせば、学生もそれに呼応して教員と一緒にデモ行進をしていました。自分の友人たちも、皆デモに参加しています。彼らに話を聞くと「レバノンには未来がない。自分たち若い世代には次々に負担がのしかかり、大学はおろか大学院を卒業してもきちんとした職業に就けないことも多い。金持ちが既得権益を手放そうとせず何も変わらないなら、自分たちで立ち上がってレバノンを変えないと。」と話してくれました。

ちなみにレバノンの国の借金は世界第3位です。1位は言わずもがな、日本。彼らの話を聞いていて、国の借金を返すのは自分たち若い世代だということを思い知らされるとともに、レバノンと日本の若者の社会問題に対しての温度差を感じました。

一方、シリア難民はこうした現在のレバノンの「革命」にそこまで大きくかかわっていません。なぜなら、あくまで一時的に滞在しているだけという法的身分に過ぎない彼らにとって、政治に参加することはできないからです。むしろ、道路が封鎖されたり、銀行が閉じてお金が引き出せなくなったり、安全上の理由で学校が一時的に休校になったりと、生活に様々な支障が出ています。そして、今の彼らの大きな関心事は、これからやってくる厳しい冬を乗り越えられるかということ。パルシックはシリア難民が少しでも安心して暮らせるよう食料配布や灯油配布に向けて準備をしていますが、こうした事業もデモの影響を受ける可能性があり、情報を集めながら慎重に活動を続けています。

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(インターン 山田)

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