ジャフナの近況#2 -浮かびあがりつつある新たな課題(その1):漁業への影響-
- コラム
前回、内戦後にスリランカ北部を走る主要な幹線道路のA9が修復され、スリランカ南部から北部への行き来が容易になったことをご紹介しましたが、その結果、以前よりも多くの人・物資が行き来するようになり、新たな変化を起こしつつあります。道路だけではなく海の行き来も自由になり、漁への影響も出ています。今回は、私たちが事業でかかわっている漁業分野での変化をお伝えします。
ジャフナ中心部からほど近い、クルナハルの漁師さんたち
漁業への影響の一つとして、内戦中はスリランカ北部にほとんど来ていなかった冷凍車がコロンボから大量に流入するようになり、漁師さんが獲った魚の価格がコロンボ市場の価格に合わせてその場ですぐに引き上げられるようになりました。その結果、ジャフナ市場での鮮魚価格が上がり、時に地元の人が買えなくなっています。また、私たちの乾燥魚事業の女性グループも以前は獲れすぎた魚を漁師さんに安価で売ってもらっていたのが、今ではすべて冷凍車に流れてしまい、魚を買えず干物が作れないと嘆いています。
クルナハル魚市場でのせり
冷凍車と仲買人
他方、陸路だけでなくこれまでは内戦で容易に移動できなかった海路での移動も楽になり、海を通っての人々の行き来も増えています。ここ数年はジャフナやムライティブなどスリランカ北部の漁場に、ネゴンボやチラウ、プッタラムなどスリランカ中南部から多数の漁業者がやって来るようになりました。砂浜に簡易な小屋を建てて暮らし、季節的に漁をしています。自分たちの漁場で時にダイナマイトや強力なライトなどスリランカで違法とされる手法で漁が行われ、それらに怯えて魚がやって来なくなることから、タミル人の漁民は怒るとともに困惑しています。加えて、隣国インドから来るトロール漁船との漁場を巡る衝突もたびたび起きており、これらの漁場をめぐる問題が地元の漁業に悪影響を与えているとジャフナの漁業関係者は頭を抱えています。漁業権の設定、漁業規制、養殖などの育てる漁業の導入など、漁業資源の枯渇を防ぐ取り組みが必要とされています。
こうした状況から、魚の価格が上がっても漁師さんたちは十分な漁獲が得られず、稼げないと嘆いています。特に、漁具を持たず漁業労働として働いている大部分の漁業者は鮮魚価格の上昇の恩恵を受けられず、生活は貧しいままです。そのため、よりよい稼ぎの仕事を求めて、スリランカ北東部の海岸からオーストラリアに違法渡航する人たちが後を絶たちません。次回はオーストラリアへの違法渡航の現状をお伝えします。
(ジャフナ事務所 西森光子)