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【開催報告】スリランカ経済危機:そこに暮らす人びとの今(前編)

  • コラム

2022年7月7日夜に、「スリランカ経済危機:そこに暮らす人びとの今」と題したオンラインイベントを開催し、経済危機下で暮らす人びとの様子を知り、日本から私たちにできることは何かを参加者の皆さんと一緒に考えました。

パルシックのスリランカでの活動を支えてきてくださっている現地に暮らすお二人、コンサルタントの田村智子さんと元パルシック北部事務所代表のアジットさんに登壇していただきました。イベントは1時間と短い時間でしたが、大変凝縮された内容でしたので、このイベントの様子を2回に分けて報告します。

1回目は、スリランカ在住歴30年で、コロンボに暮らすコンサルタントの田村智子さんのお話について報告します。生活者の視点で、スリランカで起きていることについて、次の流れでお話していただきました。

1. 2020年初の新型コロナ感染拡大から、2022年前半にかけてスリランカで起きたこと
2. 直近の2022年6月、7月に起きていること
3. なぜこのようなことになったのか?
4. なぜ市民が怒っているのか?

1.2020年初の新型コロナウイルスの感染拡大から、2022年前半にかけてスリランカで起きたこと

2020年は3月から2か月間コロナによる厳しいロックダウンが行われ、感染者数が減って経済活動を再開したものの経済回復の動きは鈍く、感染状況によって断続的な外出禁止令が出ていました。

2021年に入ると、4月に突然の大統領令によって化学肥料と農薬の輸入が禁止されました。化学肥料や農薬が突然使えなくなったため、耕作を放棄する稲作農家も出てコメ不足が心配されました。また同年12月には、外貨準備高不足が明らかになり始め、外貨の強制的なスリランカ・ルピーへの換金も行われるようになりました。

2022年1月からは観光による外貨獲得のため、外国からの観光客に対して隔離を求めることをやめました。観光客を見かけるようになったものの、この頃から計画停電が始まりました。3月には計画停電が13時間に及び、さらにプロパンガス、灯油、軽油・ガソリンを購入するために行列に並ばなくてはいけなくなりました。

4月にはゴールフェイス(コロンボ中心部にある海沿いの広場)で市民や学生による改革を求めるデモが始まりました。この頃にスリランカ中央銀行総裁が交代し、新総裁は経済政策を大きく変更するとともに、国民に対して財政がどんなに危ない状況かを明らかにするようになりました。停電は続き、医薬品の不足も問題になってきました。

5月には、社会混乱の責任を取りマヒンダ首相(ゴタバヤ大統領の兄)が退任し、ラニル氏(UNP党首)が首相に就任しました。大臣も辞職が相次ぎましたが、ついに債務不履行に陥りました。軽油やガソリンの不足がさらに深刻化し、工業や農業の生産活動ができない状況になり、物価高騰が起こりました。

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2. 直近の2022年6月、7月に起きていること

2022年6月、生活のあらゆる面に支障が出てきました。ガスの供給が完全に止まり、薪で調理を始める人もでてきました(地方では薪で料理をしていますが、コロンボではガスや電気を使っているのが普通です)。バスの運行が止まり、学校も休校に、郵便局も閉まり、オンライン販売やUberEatsも使えなくなりました。

7月に入っても、燃料不足がさらに深刻化し、社会生活や教育への影響が続いています。出勤、登校、外出ができない状況で、市民のイライラが高まり、ガソリンスタンドの行列で喧嘩も起きています。コロナ禍から続く休校のため、保護者は子どもの教育に不安を高めています。

3.なぜこのようなことになったのか?

新型コロナによる観光業への打撃が今回の経済危機の要因と言われることがありますが、長く続いた政策の誤りが主因と考えられます。具体的には税制、債務超過、農業政策、利益を生んでいない中国からの借款で造ったインフラ(空港、港、ロータスタワーなど)、遅きに失したIMFとの交渉、長年の国営企業の赤字の垂れ流しです。

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2010年くらいから対外債務残高が急激に増えている

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どこから借りていたのか;分析方法によって違いはあるものの、二国間の債務のように相手国との交渉によって返済繰り延べが難しい国債の割合が大きい

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4.なぜ市民が怒っているのか?

国の財政逼迫が深刻化しているにも関わらず、経済危機を招いた政治家たちが非を認めることなく、責任をとろうとしないためです。さらに、この経済危機を活かしてすら利益を得ている政治家がいるという噂もあります。この状況で大変な辛抱を強いられている市民が政府への不満を爆発させる可能性があります。

ただし、今回の経済危機は紛争や災害、テロなどによるものではなく、選挙で選ばれた政治家によるミスマネジメントによるものです。つまり、選挙で選んだ国民にも責任があるとも言われ、市民にとっても辛いところとなっています。

しかし、国としての財政立て直しが問題であり、国民一人ひとりで解決できるものではありません。このままでは、一番のしわよせは低所得層や脆弱層にいきます。食事、保健、教育といった基本的なニーズが満たせ、働くことができ、安心して暮らせるようになる政策、支援が必要です。

開催報告後編では、元パルシック北部事務所代表のアジットさんからの報告で、経済危機の影響を大きく受けている北部の人びとの状況をお伝えします。

(スリランカ事業担当 西森光子)

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