PARCIC

東ティモール

300ドルのゆくえ

昨年の十一月六日、水事業二年次の完了式典がアイホウ集落で行われた。式典には、日本国大使館の南博大使と専門調査員の樋口さんにもご参加いただいた。好天に恵まれた空の下、村人による歓迎のダンスがあり、南大使によるテープカット、来賓の方々のスピーチと続き、最後はみんなで食事をしてつつがなく式は終了した。

完了式典でタイスを受け取る南大使

完了式典でタイスを受け取る南大使

しかし、これで二年次も終了、さあ三年次も気を引き締めて頑張ろう、と簡単にいかないのが東ティモールである。
上水設備は基本的に、集落より高い場所にある水源から水を引き、それを大小のタンクに貯めながらパイプを使って下へ下へと流し、集落近くの公共水場に水を供給して、住民が水を使うことができる。

現在、マウベシから南に向かう道路の拡張・舗装工事を、チコという中国企業が請け負って行っている。道路を拡張するためにがけを削って木を切り倒し、ぼこぼこの地面をローラー車で平らにして、アスファルトで舗装をしている。素人目にもかなり強引で荒っぽい工事に見えるが(実際に工事途中でがけ崩れなどがひんぱんに起きている)、すごいスピードで工事は進んでいる。チャイニーズ・パワープレーである。

がけ崩れの修復作業を見守る人びと

がけ崩れの修復作業を見守る人びと

車でその道を走ると、赤い字で「CICO」と書いてあるヘルメットをかぶった大勢のティモール人労働者と、指示を出している少数の中国人エンジニアの姿を見ることができる。中国人エンジニアは僕と目が合うと、同郷と思うのかにっこり笑って手を振ってくれる。

アイホウの水源はその道路のすぐ近くにある。距離は10メートルくらいだろうか。水源の場所に立つと、道路を行きかうトラックの巻き起こす砂ぼこりを浴びるほど近い。

上水設備工事を実施していた段階では、道路の拡張工事はまだ水源の場所まで至っていなかった。水源の水は豊かで、水場の蛇口をひねれば、いつも水があふれていた。

しかしである。道路工事のために、重機を使って木をなぎ倒し、地面に埋まっていた岩を掘り起こし、ローラー車が何度も往復して地面をならした後、水源の水はぱったりと枯れてしまったのである。

枯れてしまった水源のインテイク(手前)

枯れてしまった水源の取水口(手前)

水源の水が枯れたとき、アイホウの集落の人々はチコの事務所まで行って抗議をしたらしい。あなたたちの道路工事のせいで水が止まってしまったではないか、と。まあ当然といえば当然である。頑張って上水設備を造って水汲みの苦労が軽減されたと思ったら、あっという間に水が止まってしまったのだから。

道路工事と水源が枯れたことの因果関係は明らかではないけれど、実際水が出なくなって集落の人たちは困っているというので、チコは誠意を見せて300ドルを集落長に渡した。このお金は、他の水源から水を引くための工事費に充ててほしい、というのがチコサイドの考えだったらしい。チコは道路工事をめぐって、ほかでも地元住民とトラブルを起こしていると聞いていたが、今回の迅速で現実的な対応を後で知って、僕はすこし感心した。

実は枯れてしまった水源の20メートルくらい離れた場所に、もうひとつ別の水源がある。そちらは道路工事後も枯れなかったし、それどころかもう片方(パルシックが水を引いた方)が枯れた影響か、以前より水量が豊かになったほどなのだ。だからその水源から水を引けば、上水設備は復活する。近くに別の水源があったことは不幸中の幸いだった。

もう一つの水源から新たに水を引くには、水源を保護する取水口を造り、パイプを通してタンクまでつなげばよい。そのためにはセメントや砂、鉄筋、また鉄パイプなどが必要になる。後でパルシックのエンジニアがその経費を計算してみたら、ちょうど300ドルだった。チコの出した300ドルというのは、まっとうな数字だったわけだ。

集落の人たちがチコから300ドルを受け取ってどうしたかというと「至急もうひとつの水源から水を引く工事をしてほしい」と、パルシックに連絡をよこした、のではなく、枯れた水源に水が戻ってくることをお祈りする儀式を行った。それで300ドルを残らず使って、神様にお供えするための豚や鶏、米などを買ったのだった。

神様を信じないわけではないけれど、当然というかやはりというか、儀式の後も水は出なかった。集落の人たちがパルシックに泣きついてきたときは「水も出ないし、お金もなくなった・・・」という状態だった。

パルシックとしても二年次事業は終了して予算もないので、僕はローカルスタッフを連れてチコの事務所に行き「集落の人たちがお金を使ってしまって水源の工事ができません。少しでいいので出してくれないですかね」とお願いに行った。すると応対したチコの職員は「それは困りましたね。じゃあもう一度300ドル差し上げましょう」とやさしくお金をくれた、なんてことはなく「金はもう渡しただろう」と激怒され、けんもほろろに追いかえされた。

年が明けてから懲りずにもう一度行ったが、チコは「集落長から300ドルを受け取った旨の領収証をもらっている。これ以上の金はぜったいやらん!」と、二度と来るなという態度に硬化した。言っていることは正しいし、僕も二度と来たくないと思った。パルシックのスタッフの中には「ダイさんは日本人なんだからさ、空手でチコをやっつければいいのに」といっているのがいたが、それは無視した。

せっかく上水設備を完成させたのにこのまま水が出ないのも困るので、最終的にパルシックからは使いまわしのできる資材をかき集めて提供し、足らない分のセメントなどは集落の人たちの自費負担で、あらたに水を引く工事を行った。集落の人の中には「チコはけちだ。なんで金をくれないんだ」と、まだぶつぶつ言っている人もいたが、今は工事も無事に終わり、アイホウ集落には再び水がいきわたっているのである。

新しい水源から水を引く工事中

新しい水源から水を引く工事中

新しい水源のインテイク

新しい水源の取水口

(マウベシ事務所 大島大)