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家庭から始める子どものケア③:お父さん向けワークショップの開催

他方、保護者向けのワークショップを運営する中で、課題も出てきました。前回の記事で掲載された写真から何か気づいたでしょうか?そう、お父さんたちの保護者向けワークショップへの参加がとても少なかったのです。

背景には、仕事による時間の制約のほか、女性が多く集まるワークショップには来にくい、子どもの世話は女性の役割で男性はまずは家族を養う責任を果たすべきという家父長的な考え方、家族の看病や家の再建などほかの優先すべきことが他にもある、ワークショップを行うセンターまでの交通費が高い、といった様々な事情があります。しかしながら、子どもの世話やトラウマのケアは家族全体の協力が不可欠であり、またドメスティックバイオレンスやセクシャルハラスメントなどの社会問題に取り組むためにも、世のお父さんたちの意識向上は重要です。そこで、保護者向けワークショップに加えて、お父さんを主に対象とするワークショップも実施することにしました。最初はなかなか集まらなかったお父さんたちですが、地域の会合などの後に呼びかけたり、お母さんを通してあるいは直接電話をかけて呼びかけたり、地域の名士を通してアナウンスしてもらったりしたことで、徐々に参加人数が増えました。

ワークショップに集まったお父さんたち。講義に聞き入る顔は真剣そのものであるため、威圧感が3割増…

ワークショップに集まったお父さんたち。講義に聞き入る顔は真剣そのものであるため、威圧感が3割増…

お父さん向けのワークショップで特に取り上げたのは「前向きな子育て(Positive Parenting)」というテーマです。ガザでは、子どもたちを叱る際に親、特にお父さんによって、叩いたり、怒鳴ったりするというしつけの方法が広く実践されています。ドメスティックバイオレンスに対する認識がそこまで広まっていないことだけではなく、制約のある社会でストレスや生活苦が重くのしかかり、保護者達もまた時間を取って子どもたちに向き合う余裕がないということも一因となっています。ワークショップでは①両親、特にお父さんに暴力が子どもの問題を解決するための役には立たないとの認識をもってもらうとともに、②暴力に頼らない子どものしつけや接し方を提案し、ドメスティックバイオレンス防止を呼びかけました。

この日集まったのは16人のお父さん。ファシリテーターを務める心理療法士のタサヘールが笑顔で歓迎のあいさつを述べ、その日のテーマをなぜ選んだのかを説明します。

ずらりと並んだお父さんたち

ずらりと並んだお父さんたち

「子どもへの暴力とは何だと思いますか?」とタサヘールが訪ねると、お父さんの一人が、「子どもたちへの悪い行いで、刑務所にいれられることもある」と答えます。タサヘールが「子どもを傷つける目的と意図で子どもに対して行われる不快な行い」と定義し直し、「それぞれの経験を振り返ってみてください。幼いころ、そうした不快な行いにさらされたことがありますか?」と個人的な経験を尋ねました。すると、お父さんたちが、「父に叩かれていました。私の父は厳しい人でした。一度は耳を叩かれ、それ以来難聴となってしまいました。でも私は自分の子どもを叩くことはありません。私のように苦しんでほしくないからです」「イスラエル兵に頭を強く殴られました。いまだにあの時のことを夢で見ます。眠るのに薬が必要なほどです」と暴力にまつわる経験を話してくれました。

さらにタサヘールが、暴力の種類について解説していきます。身体的なものだけでなく、精神的なもの、育児放棄、言葉の暴力、性暴力についても言及しました。例えば、罵り言葉や酷い呼び方で子どもを呼ぶといった言葉の暴力は心を深く傷つけるため、子どもが頑なったり、粗暴な態度をとるようになったり、さらには学校からドロップアウトする原因になることもあります。「特に5歳になるまでの間は子どもたちにとって、とても重要な期間です。怒鳴ったり、ひどい呼び方をしたりしてはいけません」とタサヘール。

他にも、セクシャルハラスメントのような性暴力は家族から受けることもあるため、お母さんだけでなくお父さんもそうした問題について意識し、子どもたちに話していくことが重要であると強調しました。

男性ばかりのワークショップでもひるまず講義するタサヘール

男性ばかりのワークショップでもひるまず講義するタサヘール

次に議論は「暴力が子どもに与えるインパクト」に移ります。「暴力は子どもたちに、憎しみや孤立、孤独感、攻撃的な態度、うまくコミュニケーションができない、うつ、気弱な性格になるなどの問題をもたらします。大切なのは、暴力以外の方法をとることなのです。そうした方法の一つとして、例えばポジティブあるいはネガティブな動機付け[1]が挙げられます」

最後にまとめとして次のような子育てのポイントをお父さんたちに提示しました。

 

【参加者の声】

〇アブドゥルラフマン・アルサッターリさん

アブドゥルラフマンさんは、12歳になるムハンナドくんのお父さんです。

「父親向けのワークショップのことは妻から聞きました。妻も保護者向けワークショップにとても楽しそうに通っていますよ。妻はあまり外出もしないため家にこもりがちだったのですが、通い始めてからより社交的になりました」。

ワークショップについての感想を聞いてみると「出席してよかったです」との答えが返ってきました。「子どもたちへの適切な接し方に気が付きました。私もついつい子どもに怒鳴ってしまっていたのですが、言葉の暴力を使ってもうまくいかないのだと気づかされました。すぐに怒らずに忍耐強く子どもに接し、なぜ叱られているのかを分からせることが大事なのだと学びました」。

娘が多いアブドゥルラフマンさんは、一人息子であるムハンナドくんに過保護に接しがちだったと振り返ります。「ムハンナドは良い子ですが、近所の子どもたちには素行が悪い子もいるため、余り出歩かせないようにしていました。でもこれからはもっとあの子が自由にできるようにしようと思います。そしてその分、息子とよく話すようにしていきます」。

※この事業は、ジャパン・プラットフォームの助成を受け、現地パートナー団体DBRSと協力のもと実施しています。

(ガザ事務所 タグリード)

[1] 例えば、ごほうびを与える(ポジティブな動機付け)、おもちゃやゲーム、テレビを禁じる(ネガティブな動機付け)など。